久しぶりの投稿で恐縮ですが、マルタの海で死にかけました。
いよいよ、2019年度のマルタ産養殖本鮪の冷凍事業が10月くらいから始まるのですが、マルタの養殖事業者との契約でマルタに出張に行っておりました。
契約締結までの過程で、生簀にマグロが実在しているのか、魚体サイズはどうなのか等、実際に生簀に入っての確認作業をしなければなりません。
ところで、マルタ共和国は地中海の中央に位置する、人口60万人くらいの小さい島国なので、資源が乏しく、観光が主要産業の一つであります。
近年、マルタ政府も観光インフラの整備に力を入れており、昨年度からマグロの養殖生簀をマルタ政府が指定した沖合に設置することが義務付けられました。
それまでは、陸から生簀まで船で数十分の距離に設置されておりましたが、諸事情があり、1時間以上かかる沖合に現在は設置されております。
沖合に生簀が移されて、初めての生簀内の目視作業だったのですが、
当然、余裕ですよね。談笑しながら1時間の地中海クルーズみたいなモンですよ。船はポンポコ船ですけどね。
お、着いたか。どれどれ。。。
ちなみに、この日は快晴でしたが、水温25度くらい、波の高さが50−70cmとの報告は受けておりました。
通常の生簀視察の段取りは、乗ってきた船はサイズ的に生簀の側まではいけないので(流されて生簀にぶつかり、生簀が破損することがある)、小回りの利くゴムボートで生簀まで行き、ゴムボートから生簀内に飛び込むのが主流であります。
しかし、今回は、ゴムボートが他の生簀で作業しているとの事で、数十分待ってほしいとの事。
いやいやいや、この炎天下で、しかもずっと揺れてるポンポコ船、船のどこにいても排気ガス攻撃で、マルタ時間の数十分は数時間でしょ。
小生はキャプテンに伝えましたよ。
Hay, Captain, I can swim, people call me “Japanese Ian Thorpe.” in my town. (キャプテン、俺、泳いでいくよ。地元じゃ和製イアンソープって呼ばれてるくらいだからさ。)
Captain said, who is that….(誰それ)
??? Excuse me, you don’t know Ian James Thorpe who got 5 gold medal in Olympics game. his nick name is THORPEDO, meaning comes from TORPEDO… (えー、お前、あのイアンソープ知らないの?? オリンピックで5個も金メダル取ったあのイアンソープ知らんの? 魚雷の様に早く進むもんだから、ソーピードって呼ばれてるあのイアンソープ知らんのけ??)
Captain said, is it soap?? (石鹸?)
I said, Ok, forget it.
なんてやり取りもありながら、ここまでで既に数十分過ぎてますけど、とにかく泳いで行った方がいいと判断しました。
いやね、わかりますよ。危険だってね。でもね、僕、福井の三国町生まれですから。母方の家系は漁師ですから。ガキの頃から東尋坊の荒波で揉まれてますからね。
中学生時代、東尋坊から飛び込めない奴は漢じゃねぇなんて、今の時代ならパワハラで訴えられる世界で生き延びてきましたからね。
シュノーケル、ライフジャケット無で勢い勇んで飛び込みましたよ。海パン一丁でね。俺の後に続けーって感じでね。
飛び込んだ瞬間、まず体が固まりました。水温25度どころじゃねーじゃねーかーゴラァ。めちゃくちゃ冷たくて、一瞬にして左足がつりました。。。
もうここから死闘ですよ。生簀まで行くのを諦め、生簀を支えているブイ(浮き具)まで必死で泳ぎましたね。そのブイの近くにロープがあったのでそれに捕まったのですが、そのロープ、ただ漂っていただけで、とらえた瞬間、一緒に沈んで行きましたよ。。。
あっ、終わったなと。俺の人生ここまでかと。「享年45歳、地中海の沖合に海パン一丁で挑んだ漢」くらいは葬式で言ってもらえるかなと。。。
ってな事を考えながら、やっとブイまで辿り着いたのですが、このブイ、近くで見るとメチャクチャ大きいんですよね。しかも海水で濡れてるから滑ってしがみつきたくても無理で、ここから記憶が曖昧なのですが、気づいたらブイと生簀を支えているロープにしがみついていました。
当然、海上ですから、容赦なしに波が襲ってきます。ロープも激しく上下して、まるで小生をほどき落としたいかの様な状況です。
そこでやっとゴムボートが救助に来てくれて、なんとか引き上げてもらいました。
全身の力が抜けて、全く動けなかったです。ただただ助かったと。
えっ、ところで魚は見たのかですって?。当然じゃないですか。1分ほどですが。生簀の中でも、潮流が早過ぎて流されるんですよね。海の中の音って初めて聞いたんですが、ゴォーーーーーって鳴ってるんですよ。東尋坊じゃ聞いたことのない音が鳴ってるんですよ。
陸に戻って、事業者のスタッフ達に聞いたのですが、特にマルタの沖合は潮流が早く、しかも2〜3方向からの潮流が重なり合っているとの事で、「よく海パン一丁で飛び込んだなぁ」と半笑いされながら話している社長を見て、ぶん殴ってやりたいと思いましたが、既に全体力を使い果たし、苦笑いするしかできませんでした。
今回身をもってわかった事は、マルタのマグロは味、鮮度とも業界トップの評価をいただいておりますが、この様な過酷な海域で養殖されているので、天然に近い、かつ脂が乗った鮪が生産されるのだと、この身をもって理解しました。
昨今、価格が価格がと市場では言われていますが、我々、命をかけて見てきた鮪ですから、安いはずはないですよ。。。
その後は
これはマルタのある街のお祭りです。生きて帰ってこれた事を教会で感謝しました。
著者について